定着率の高い会社とは
定着率の高い会社とは、従業員が長期間にわたって働き続ける組織のことを指します。
単に離職者が少ないだけでなく、メンバーが企業に愛着を持ち、成長を実感しながら働ける環境が整っていることが特徴です。
定着率を正しく理解し、現状を把握することが改善の第一歩となります。
- 定着率の定義と計算方法
- 日本企業の平均定着率はどのくらい?
定着率の定義と計算方法
定着率とは、一定期間において企業に在籍し続ける従業員の割合を示す指標です。一般的に「定着率(%)=(期末在籍者数÷期初在籍者数)×100」で計算されます。
また、入社から一定期間後の定着率を測る場合は「入社3年後定着率=(入社3年後も在籍している人数÷同期入社者数)×100」という計算式が使われます。
この指標は企業の人材マネジメントの健全性を測る重要なバロメーターとなっており、採用活動や職場環境の改善に活用されています。
定着率が高いほど、従業員満足度が高く、組織運営が安定していることを示しています。一方で、離職率(100-定着率)も併せて分析することで、より詳細な組織の状況を把握できます。
日本企業の平均定着率はどのくらい?
厚生労働省の雇用動向調査によると、日本の企業全体の離職率は年間約14〜15%程度で推移しており、定着率は85〜86%となっています。業界別に見ると、宿泊業・飲食サービス業が最も離職率が高く約26%、逆に電気・ガス・熱供給・水道業や金融・保険業は離職率が低く、定着率が90%を超える傾向にあります。
また、入社3年以内の離職率については、中卒が5割、高卒が約4割、大卒が約3割、特に新卒者の早期離職が課題となっています。企業規模別では、従業員数1,000人以上の大企業の方が中小企業より定着率が高い傾向にありますが、近年は企業の取り組み次第で中小企業でも高い定着率を実現する事例が増えています。
定着率の高い会社に共通する7つの特徴と魅力
定着率の高い会社には共通する特徴があります。これらの要素は相互に関連し合い、従業員が長く働きたいと思える環境を作り出しています。以下の7つの特徴を詳しく見ていきましょう!
- 明確な評価制度とキャリアパス
- ワークライフバランスを尊重した制度
- 社内コミュニケーションが活発
- 働きがいのある企業文化
- 福利厚生や給与制度が充実
- 上司との信頼関係が良好
- 柔軟な働き方を採用(リモート・時差勤務など)
1. 明確な評価制度とキャリアパス
定着率の高い企業に共通するのは、社員一人ひとりが「自分は成長している」と実感できる評価制度が整っている点です。評価基準が明確かつ透明であることに加え、「なぜその評価なのか」が理解できることで、社員は納得感を持って日々の業務に取り組めます。
例えば、目標管理手法としてOKR(Objectives and Key Results)を導入している企業では、個人の目標とチーム・会社の目標が結びついているため、成長実感がより明確になります。さらに、上司との定期的な1on1ミーティングを通じて進捗確認やフィードバックが行われることで、個別の課題や成果に寄り添ったサポートが可能です。
加えて、社内公募制度や複数のキャリアコースが用意されていることで、自分に合ったキャリアを主体的に選び、未来を描ける環境が整っています。
2. ワークライフバランスを尊重した制度
現代の働き手にとって、仕事とプライベートの調和は欠かせない要素です。実際に定着率の高い企業では、フレックスタイム制度やテレワーク制度の導入により、働く時間と場所に柔軟性を持たせています。
例えば、有給休暇取得率が80%以上を目標とし、計画的な取得を奨励する制度や、月の平均残業時間を20時間以内に抑える取り組みを行っている企業もあります。
また、育児・介護との両立支援として時短勤務や在宅勤務の選択肢を整えるほか、リフレッシュ休暇やアニバーサリー休暇など、個人のライフイベントに寄り添った特別休暇制度を設ける動きも広がっています。こうした制度は、従業員の持続可能な働き方を支え、企業への信頼や定着率の向上にもつながります。
3. 社内コミュニケーションが活発
風通しの良い職場環境は、社員の心理的な安心感や職場への愛着を生み、離職防止に大きく寄与します。雑談や1on1、チームランチ、社内イベントなど、業務外も含めた自然なコミュニケーションの場があることで、相互理解や信頼関係が深まりやすくなります。
また、オンライン環境でも、Slackの雑談チャンネルやバーチャルランチ会、週次のライトな1on1などを活用することで、物理的距離を超えたつながりの形成が可能です。こうした取り組みにより、部署間の壁を越えた交流や、上下関係にとらわれないオープンな雰囲気が生まれ、結果として「ここで働き続けたい」という意欲を育む基盤となります。
4. 働きがいのある企業文化
仕事にやりがいや誇りを感じられる企業文化は、定着率向上の鍵となります。特に、企業理念や社会的使命が明確に示され、それが日々の業務と結びついていると、一人ひとりが「自分も会社の未来に貢献している」という実感を得られます。
また、心理的安全性が確保され、自由に意見を出し合える風土や、チャレンジや失敗を前向きに評価する姿勢が、社員の成長意欲と創造性を引き出します。加えて、社会貢献活動への参加機会や、現場の声を反映する制度の存在も、企業への共感や愛着を育む要因です。
例えば、「働きがいのある会社ランキング(Great Place to Work)」上位企業では、理念の浸透・透明性のあるコミュニケーション・多様性の尊重などが共通して評価されています。働きがいとは、単なる報酬や福利厚生にとどまらず、「ここで働いてよかった」と感じられる体験の積み重ねなのです。
5. 福利厚生や給与制度が充実
競争力のある給与や福利厚生は、単なる待遇にとどまらず、従業員が長く安心して働ける土台となります。特に住宅補助や家族手当、報奨金制度などの生活支援につながる手当は、従業員の定着率を高める大きな要因です。
例えば、サイバーエージェントでは社員食堂を無料で提供するほか、ソフトバンクでは育児や介護に柔軟に対応できる短時間勤務制度を整備。トヨタ自動車では住宅支援や財産形成制度が充実しており、ライフステージに応じて安心して働ける環境づくりに力を入れています。
最近では、カフェテリアプランや在宅勤務手当、資格取得支援など個別ニーズに応じた福利厚生も拡充されており、社員一人ひとりの働きがいを高める工夫が進んでいます。ただし、制度の充実度だけでなく、実際に使いやすいかどうか、利用が促されているかどうかも重要な視点です。こうした仕組みが整っている企業ほど、自然と長期的な雇用関係を築きやすいと言えるでしょう。
6. 上司との信頼関係が良好
離職理由として多く挙げられるのが、「上司との関係性」です。逆に言えば、信頼できる上司がいる職場では、社員が安心して働ける心理的な安定が得られ、定着率向上にもつながります。
定着率の高い企業では、管理職のマネジメント力を育成する研修に加え、メンタリング制度や上司評価制度を導入するなど、上司と部下の信頼関係づくりを制度面でも支援しています。定期的な1on1ミーティングでの対話や、部下の声を汲み取る姿勢が、安心感と成長意欲の両立を生み出します。
7. 柔軟な働き方を採用(リモート・時差勤務など)
近年、ハイブリッド勤務やフルリモートといった柔軟な働き方を取り入れる企業が増えています。こうした制度は、従業員が自分のライフスタイルに合わせて働ける環境を整えるものであり、「家庭との両立がしやすい」「育児や介護とのバランスがとれる」といった理由から、特に多様な背景を持つ人材に支持されています。
実際に、フレックスタイム制や時差出勤制度を導入している企業では、従業員満足度やエンゲージメントの向上に加え、優秀な人材の流出防止という成果も上がっています。リモート対応のIT環境やデジタルツールを活用した業務効率化、成果重視の評価制度との連動も、こうした働き方を成功に導く鍵です。
定着率の高い会社であることのメリット
定着率の向上は企業にとって多面的なメリットをもたらします。短期的なコスト削減から長期的な競争力強化まで、その効果は組織全体に波及します。以下、主要なメリットを詳しく見ていきましょう。
- 採用や教育のコストを削減できる
- 働きやすく事業の生産性が向上する
- 企業イメージが上がり人材確保が容易になる
採用や教育のコストを削減できる
早期離職が続くと、採用活動の頻度が増え、1名あたりの採用コスト(一般に年収の約30〜50%)が何度も発生することになります。さらに、新人が業務に慣れ、独り立ちするまでには平均3〜6ヵ月の育成期間が必要とされ、その間の教育担当者の工数も含めると、1人あたり数百万円規模の投資が必要です。
これに対し、社員の定着率が高まれば、採用や再教育の頻度が減少し、不要な再投資を回避できます。結果として、長期的な採用コストの抑制に加え、教育にかける時間や労力も最適化されます。さらに、既存メンバーの知見やノウハウが蓄積されるため、新人教育の質も向上し、教育コストの効率化にもつながります。
働きやすく事業の生産性が向上する
定着率の高い職場では、業務が個人に依存しにくくなり、属人化のリスクが減少します。長く働くことで社員の熟練度が上がり、業務効率や成果が自然と高まります。チーム内では信頼関係が築かれ、役割分担やサポートがしやすくなるため、スムーズな連携が可能となり、組織全体のパフォーマンスが向上します。
また、熟練した人材が継続的に改善提案を行うことで、業務の質も磨かれていきます。一方で、常に人が入れ替わる職場では、引き継ぎコストや教育負担がかさみ、連携の質も安定しづらい傾向があります。人が定着することで得られる業務の積み重ねこそが、組織の競争力を支える大きな強みとなるのです。
企業イメージが上がり人材確保が容易になる
離職率の低い企業は、「安心して働ける」「社員を大切にしている」といったポジティブな印象を持たれやすく、企業イメージの向上につながります。近年はOpenWorkや転職会議といった口コミサイト、SNSの投稿が求職者の情報収集源として定着しており、社員の声がダイレクトに企業評価へ影響を与える時代です。
また、「長く働ける会社かどうか」を重視する志向が強まっている今、定着率の高さは求職者にとって安心材料となり、応募数の増加や採用コストの削減にも貢献します。自社に誇りを持つ社員が知人に推薦するリファラル採用も活性化しやすくなります。
さらに、従業員を大切にする姿勢は社外にも伝わりやすく、取引先や顧客からの信頼向上にも寄与します。ESG投資の観点でも「人を大事にする企業」として評価されやすく、結果的に企業の持続的成長や競争優位の確立にもつながります。
定着率を上げるために企業ができること
定着率の向上は戦略的な取り組みが必要です。場当たり的な対策ではなく、体系的かつ継続的なアプローチが重要となります。以下、効果的な施策について具体的に解説します。
- オンボーディングと育成プランの強化
- 従業員満足度の定期調査を改善
- 離職理由の分析と対策
- 改善施策の実施と効果測定
オンボーディングと育成プランの強化
新入社員の3ヵ月・6ヵ月以内の離職を防ぐためには、入社直後からの明確な導入支援=オンボーディング体制の整備が不可欠です。例えば、初日のウェルカムイベントや入社前の業務ガイドの提供によって不安を軽減し、メンター制度による伴走支援で孤立を防ぎます。また、OJT(現場研修)とOff-JT(集合研修)を計画的に組み合わせ、育成ロードマップに沿った段階的なスキル定着を図ることで、「自分はこの会社で成長できている」という実感を持たせることができます。
さらに、入社3ヵ月・6ヵ月のタイミングで面談を実施し、定着状況や不安の有無を把握しながら、必要に応じて支援内容を調整します。これにより、新入社員の不安を早期に解消し、離職防止と早期戦力化の両立を実現します。キャリア形成支援を通じて、従業員のエンゲージメント向上にもつながります。
従業員満足度の定期調査を改善
従業員の本音を継続的に把握し、職場改善につなげるためには、ES(Employee Satisfaction)調査の定期実施が欠かせません。調査項目には、業務内容・人間関係・評価制度・キャリア支援などを盛り込み、匿名性を確保することで率直な声を集めます。
調査の回収率を高めるには、「何のための調査か」を明確に伝えることが大切です。また、回答後のフィードバックや対応がない「やりっぱなし」は信頼を損ねるため、結果を社内に共有し、具体的な改善アクションを示すことが不可欠です。
単なる数値で終わらせず、対話の入口として活用し、組織と個人がともに成長するためのツールとして位置づける姿勢が、信頼とエンゲージメントの向上につながります。
離職理由の分析と対策
離職を防ぐには、「なぜ辞めたのか/辞めたいのか」を明確に把握することが第一歩です。そのために有効なのが、退職面談などの定性的アプローチと、エンゲージメント調査などの定量的アプローチを組み合わせた多角的な分析です。
面談では、本人の言葉で語られる不満や価値観とのギャップを丁寧に聞き取り、表面化しにくい本音を拾い上げます。一方、アンケートでは数値的傾向を把握しやすく、全体の共通課題の抽出に役立ちます。
例えば、「評価への不満」が多いと判明した場合は、評価基準の見直し→制度改定の試験導入→再調査といった施策→検証→改善のサイクルを回すことが重要です。
こうした継続的な分析と対応により、離職の予兆に早期に気づき、再発防止だけでなく職場環境そのものの改善にもつなげることができます。データと対話の両輪で、定着率の向上を実現しましょう。
改善施策の実施と効果測定
ES調査や離職分析の結果をもとに、課題に対する具体的な改善策を講じることが重要です。例えば「1on1の実施頻度を週1回に増やす」「キャリア面談制度の見直し」「評価制度の透明化」など、従業員の声を反映したアクションが求められます。
施策はやりっぱなしにせず、KPI(例:離職率を半年で○%改善、満足度スコアを○点以上に向上)を設定し、短期〜中長期で効果測定を行います。定着率の推移や離職理由の変化といった定量データに加え、従業員の声や職場の雰囲気といった定性的な要素も確認します。
分析結果に応じて施策の見直しや新たな改善策を設計し、継続的にPDCAを回すことで、組織は安定した人材定着とエンゲージメント向上を実現できます。大切なのは、一度の施策で満足せず、常に現場の反応をもとに改善し続ける姿勢です。
まとめ
定着率の高い会社は、メンバーが安心して働き続けられるよう、評価制度の透明化、柔軟な働き方、ワークライフバランスの尊重といった複数の要素をバランスよく整えています。さらに、心理的安全性を高めるコミュニケーションの仕組みや、やりがいを実感できる企業文化、信頼できる上司との関係構築も大きな支えとなっています。
これらは単発の施策ではなく、組織全体で取り組む継続的な努力の積み重ねによって成り立つものです。着実な改善を重ねることで、社員のエンゲージメントとキャリア満足度が高まり、結果として企業の競争力と魅力を育んでいきます。
また、Cultiveでは全社総会やキックオフをはじめとする社内イベントや、エンゲージメント向上につながる文化施策を幅広くサポートしております。
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