ブランドステートメントとは
ブランドステートメントとは、企業がお客様に対して「どのような価値を提供し、どのような姿勢でそれを実現するのか」を明文化したものです。
企業の存在意義やブランドの核となる考え方を、一文または短い文章で端的に表現します。
似た概念に企業理念やスローガン、タグラインがありますが、ブランドステートメントは消費者や顧客に届きやすいようにより明確にまとめられることが一般的です。
また、「ブランドメッセージ」と混同されがちですが、ブランドメッセージは商品や広告などの文脈で変化する一方、ブランドステートメントは企業全体に共通する不変の軸として機能します。
ミッション・ビジョン・バリューとの違い
ブランドステートメントは、企業の「ミッション(存在意義)」「ビジョン(目指す未来像)」「バリュー(大切にする価値観)」を踏まえたうえで、社外に向けた統一的なメッセージとしてまとめたものです。
要素 | 意味 | 主な役割 |
---|---|---|
ミッション | 企業の存在意義 | なぜ存在するのかを定義する |
ビジョン | 目指す理想の未来 | どこへ向かうのかの指針 |
バリュー | 行動や判断の価値基準 | どう行動するべきかを示す |
ブランドステートメント | ブランドとしての対外的メッセージ | MVVを踏まえた社内外への一貫した発信軸 |
このように、ブランドステートメントはMVVを土台にしつつ、外部との接点においてブレないブランドの「顔」として機能します。
ブランドステートメントを開発するメリット
ブランドステートメントを明確に定めることで、企業活動の軸が明確になり、さまざまな場面での判断や発信が一貫性を持つようになります。
特に以下のような効果が期待できます。
- 社内の方向性を統一できる
- 一貫したメッセージを伝えられる
- 社内での意思疎通を円滑化できる
- 採用や広報活動に組み込める
ひとつずつ順番に見ていきましょう。
社内の方向性を統一できる
ブランドステートメントがあることで、メンバーは「自分たちは何のために、どの方向に向かって仕事をしているのか」を明確に理解できるようになります。これは単なるブランディングの枠を超え、日々の業務方針や意思決定の指針としても機能します。
例えば、ベンチャー企業で「誰もが使えるテクノロジーを」というブランドステートメントを掲げたことで、エンジニアから営業までが「誰に届けるか」「どの機能を優先すべきか」の判断に迷いがなくなり、プロジェクトの進行がスムーズになっていくでしょう。
特に組織拡大中のスタートアップや成長フェーズの企業では、部門ごとの目線のズレが課題になることが多いため、共通の軸を持つことは非常に重要です。
一貫したメッセージを伝えられる
ブランドステートメントを軸にすることで、広告やSNS、営業資料、広報活動など、あらゆるお客様との接点において一貫したメッセージを発信できるようになります。発信内容に統一感があると、お客様はブランドに対する明確なイメージを持ちやすくなり、認知の定着や信頼の醸成につながります。
例えば、商品やサービスの内容が変化しても、「誰のために、なぜそれを提供するのか」という根本的な価値がブレなければ、ブランドとしての一貫性を保つことが可能です。また、競合他社が似たような商品を出していても、独自のブランドステートメントに基づくメッセージがあれば、差別化の軸として機能します。
企業が成長し、発信チャネルが増えるほど、言葉の整合性は崩れがちです。だからこそ、ブランドステートメントが“企業の声の中心”として重要な役割を果たします。
社内での意思疎通を円滑化できる
ブランドステートメントを共有することで、メンバー全員が共通の価値観や判断基準を持てるため、意思決定がスムーズになります。特に部署をまたぐプロジェクトでは、異なる専門分野や背景を持つメンバー同士が同じ「軸」を理解していることで、意見のズレや誤解を減らせます。
例えば、新製品開発のプロジェクトでマーケティング部と技術部が連携する際、ブランドステートメントに基づいた「お客様第一」の考え方が共有されていれば、優先順位や目標設定での食い違いを早期に解消できます。
また、新入社員教育でもブランドステートメントは重要です。企業文化や行動指針を理解していく上での「共通言語」として機能し、早期に組織に馴染んでいく手助けとなります。こうした場面でもブランドステートメントは、社内の円滑なコミュニケーションに不可欠な役割を果たします。
採用や広報活動に組み込める
ブランドステートメントは、採用活動において「自社が何者か」を明確に伝える重要なツールです。これにより、企業の価値観や方向性を理解した応募者が集まりやすくなり、ミスマッチを防止し、応募者の質の向上につながります。
具体的には、企業ホームページや採用ページ、パンフレット、SNSでブランドステートメントを紹介することで、その会社の目指している未来像や社会的意義を理解しやすくなります。
また、企業の文化や価値観といったイメージも伝わりやすくなり、入社後のイメージも持ちやすくなります。こうしたメッセージを事前に届けておくことで、入社後のギャップを減らせる効果も期待でき、早期離職を防ぐことにもつながりやすくなります。
さらに、広報やIR活動にもブランドステートメントは応用可能です。対外的に企業の姿勢や価値を一貫して発信することで、ステークホルダーからの信頼を獲得し、企業ブランドの向上に寄与します。
ブランドステートメントの作り方
ブランドステートメントは感覚的に作るものではなく、段階的に思考を深めながら設計することが大切です。
以下のステップに沿って整理すれば、自社らしさを的確に表現したメッセージを作りやすくなります。
- ターゲット顧客を明確にする
- 自社の強みや価値観を洗い出す
- コアメッセージを絞り込む
- 簡潔で印象に残る言葉にまとめる
- 社内外で共有・運用する
ひとつずつ順番に解説いたします。
1. ターゲット顧客を明確にする
ブランドステートメントを作るうえで最初におこなうべきは、「誰に向けてメッセージを発信するのか」を明確にすることです。
ターゲット設定が曖昧なままでは、伝えるべき内容や言葉選びが定まらず、結果としてメッセージがぼやけてしまいます。
年齢層、価値観、ライフスタイル、購買動機、仕事や生活で抱える課題など、複数の軸でターゲット像を具体化することが重要です。
例えば「30代女性」で終わらせるのではなく、「子育てと仕事を両立しながら、時短で質の高いサービスを求めている」といった深掘りが求められます。
また、ペルソナ設計や消費者インサイト(お客様の本音・動機)を把握することも、訴求力のあるステートメントを作るうえで有効です。
誰に届けるのかが明確になれば、伝えるべき内容の輪郭も自然と見えてきます。
2. 自社の強みや価値観を洗い出す
ターゲットが定まったら、次に取り組むべきは「自社らしさ」の言語化です。
ミッションや企業理念、創業者の想い、メンバーの声、会社の歴史などから、自社の強みや大切にしている価値観を丁寧に掘り起こしていきます。
例えば、創業当時から変わらない信念、お客様から高く評価されているポイント、競合にはない独自の強み、過去の成功体験などを手がかりに、「なぜこの会社が選ばれているのか」を言語化していく作業です。
この過程では、部署横断でブレインストーミングをおこなったり、ワークショップ形式でメンバーの意見を集めたりする方法も効果的です。
現場の声を反映させることで、よりリアルで説得力のあるブランドステートメントの土台が築けます。
3. コアメッセージを絞り込む
自社の強みや価値観を洗い出したら、それらを整理し、ブランドの核となるメッセージをひとつに絞り込みます。
コアメッセージとは、ブランドが一貫して発信する「中核の考え方」や「態度」を示すものです。
単なるスローガンではなく、ブランドとしての“約束”や“主張”、“世界観”を凝縮した表現が求められます。
例えば、「私たちは○○を通じて△△を実現します」というようなフォーマットを活用することで、内容を整理しやすくなります。
例)「私たちはテクノロジーを通じて、誰もが快適に暮らせる社会をつくります」
重要なのは、社内外の関係者が理解しやすく、共感しやすい言葉で表現することです。
難解な表現や抽象的すぎる言い回しでは、せっかくのメッセージが伝わりにくくなってしまいます。
4. 簡潔で印象に残る言葉にまとめる
コアメッセージが定まったら、それを誰にでも伝わる形に言語化するステップへ進みます。
ポイントは、短く、わかりやすく、そして記憶に残る表現にすることです。
ブランドステートメントはスローガンやタグラインとは異なり、社内外に向けた理念的なメッセージですが、簡潔性と印象の強さが同様に求められます。使用する語彙やトーンも、ブランドの個性やお客様との関係性にふさわしいものを選びましょう。
例えば、「Apple=Think different」や「スターバックス=第三の場所」などは、ブランドの価値観や哲学を短い言葉に凝縮した好例です。
こうした表現があることで、社内での理解が深まるだけでなく、お客様や社会にもブランドの世界観が強く印象づけられます。
5. 社内外で共有・運用する
ブランドステートメントは作成して終わりではありません。
共有や運用の仕組みが整っていなければ、ただの「きれいごと」で終わってしまい、形骸化するリスクがあります。
まず社内では、ブランドブックへの掲載や社内研修での活用、評価制度への反映などを通じて、メンバー一人ひとりがブランドステートメントを“自分ごと”として理解・共感できるようにすることが重要です。採用ページやパンフレット、広報ツールなどでの社外発信にも組み込むことで、一貫したブランドイメージを伝えることができます。
また、企業の成長や市場環境の変化に応じて、定期的に見直しをおこない、常に実態と乖離しないメッセージにアップデートしていくことも欠かせません。
ブランドステートメントを作る注意点と活用のコツ
せっかくブランドステートメントを作っても、「社内に浸透しない」「使いどころがわからない」となっては意味がありません。
形骸化を防ぎ、実際に活用されるものにするためには、以下のようなポイントに注意する必要があります。
- 抽象的すぎる表現は避ける
- スローガンやキャッチコピーと混同しない
- 時代の変化に応じて定期的に見直す
- 社内研修や評価制度に組み込む
- ブランドガイドラインと統合する
抽象的すぎる表現は避ける
ブランドステートメントを作成する際、もっとも避けたいのが「何を言いたいのか伝わらない」抽象的な表現です。
聞こえはよくても、具体性や対象が不明確なメッセージは、社内外に響かず、浸透もしません。
例えば、「私たちは人々に幸せを提供します」という表現では、何をどうやって届けるのかがわかりません。
これを「毎日の朝を心地よくするコーヒー体験を提供します」と言い換えるだけで、誰に・何を・どう届けるのかが明確になります。
ブランドステートメントは、共感されて初めて意味を持つものです。抽象的な理念ではなく、具体的な行動や価値がイメージできる言葉を使うことで、社内の理解が深まり、お客様にも強く伝わるメッセージになります。
スローガンやキャッチコピーと混同しない
ブランドステートメントは、企業の価値観や姿勢を明文化した“軸”であり、短期的な広告文や販促用のキャッチコピーとはまったく役割が異なります。
混同してしまうと、社内外へのメッセージに一貫性がなくなり、ブランドイメージがブレる原因になります。
例えば、スローガンやキャッチコピーは消費者の認知拡大や印象づけを目的に使われる「訴求用の表現」であり、キャンペーンごとに変わることもあります。一方で、ブランドステートメントは企業の存在意義や理念を表現する「価値観共有」のための言葉で、長期的に使い続けられるものです。
両者はどちらも重要ですが、役割を明確に区別することで、ブランドコミュニケーション全体に一貫性が生まれ、お客様やメンバーからの信頼を得やすくなります。
時代の変化に応じて定期的に見直す
先述のとおり、ブランドステートメントは、一度作ったら終わりではありません。
社会の価値観、お客様のニーズ、業界トレンドは常に変化しており、それに応じてブランドのあり方や役割も変わっていきます。
そのため、ブランドステートメントも定期的に見直し、アップデートすることが重要です。
特にスタートアップや新興企業では、事業の成長や顧客層の変化、提供価値の進化に合わせて、3〜5年単位で内容を見直すケースが多く見られます。
逆に、大企業でも10年に一度のブランド再定義や理念の刷新をおこなうこともあり、時代に取り残されないブランド構築の一環として実施されています。
「今のステートメントは現場の行動と合っているか?お客様に響いているか?」という視点で、定期的なチェック体制を整えておくと、ブランドの軸が常に実態に即したものになります。
社内研修や評価制度に組み込む
ブランドステートメントを形だけの理念で終わらせず、実際の行動に落とし込むためには、社内教育が不可欠です。
特に新入社員研修でブランドステートメントの意味や重要性を丁寧に伝えることで、早期から企業文化に馴染んでいくことができます。
また、評価制度にブランドステートメントを反映させ、メンバーの行動や成果を評価軸に組み込むことで、理念と現場のギャップを埋める仕組みが作れます。チーム目標やKPIにもブランドの価値観を取り入れれば、日々の業務にブランドステートメントが自然と浸透していくでしょう。
こうした取り組みは、メンバー一人ひとりがブランドの価値を自分ごととして理解し、体現できる環境づくりに欠かせません。
ブランドガイドラインと統合する
ブランドステートメントは単独で存在させるのではなく、ロゴやカラー、書体、表現トーンなどと一貫したブランドガイドラインの一部として組み込むことが重要です。これにより、社内外の関係者がブランドの核となる価値観と視覚的表現をセットで理解しやすくなります。
特に広告代理店や制作チームと共有する際には、ブランドステートメントが明文化されていることで、メッセージのブレを防ぎ、統一感のあるクリエイティブ制作が可能になります。
ブランドガイドラインにブランドステートメントが含まれていると、全社的にブランド運用の精度が高まり、お客様に一貫したブランド体験を提供できるようになるため、長期的なブランド価値の向上につながります。
ブランドステートメント成功事例3選
ここでは、ユニクロ、Apple、スターバックスという世界的ブランドの成功事例を紹介します。
それぞれのブランドがどのような背景からステートメントを策定し、どのように社内外で浸透・活用しているのかを簡潔にまとめました。
- ユニクロ|LifeWear
- Apple|Think different
- スターバックス|人々の心を豊かで活力あるものにするために
順番に見ていきましょう。
ユニクロ|LifeWear
ユニクロのブランドステートメント「LifeWear」は、「服を通じて日常生活をより豊かで快適にする」という思想に基づいています。
この考え方は、シンプルで機能的かつ高品質な商品開発にしっかりと反映されており、店舗のデザインや広告キャンペーンにおいても「生活に寄り添う服」というメッセージを一貫して伝えています。
特にグローバル展開を進めるなかで、「LifeWear」は文化や国境を超えて共感を呼ぶ普遍的な価値観として位置づけられており、多様な市場やお客様層で広く受け入れられていることが大きな特徴です。
こうしたブランドステートメントの明確化と共有により、世界中のお客様との強固な信頼関係を築き、ユニクロのブランド力向上に大きく貢献しています。
Apple|Think different
Appleの「Think different」は、単なるスローガンを超えたブランドステートメントとして機能しています。このフレーズは、スティーブ・ジョブズが掲げた革新性や創造性を体現し、既存の常識にとらわれず、新しい価値を創造し続ける企業姿勢を端的に表現しています。
1997年のキャンペーンでは、「Think different」がメインメッセージとして採用され、アップルが社会を変革する“異端者”や“挑戦者”の象徴であることを強調しました。この広告は多くの人々に共感され、Appleのブランドイメージ確立に大きく貢献しています。
このように「Think different」は、企業の理念と製品開発の方向性を一貫して示し、メンバーやお客様に強い共感と信頼を生み出す重要なブランドステートメントとなっています。
スターバックス|人々の心を豊かで活力あるものにするために
スターバックスのブランドステートメント「人々の心を豊かで活力あるものにするために」は、店舗の空間設計や接客スタイル、CSR活動に深く反映されています。店舗は「第三の場所」として、自宅や職場以外でくつろげる居心地のよい空間を提供し、訪れる人々に安らぎと活力をもたらす場となっています。
また、スタッフの丁寧で温かい接客もこの理念を体現しており、お客様一人ひとりとのつながりを大切にする文化が根付いているのが特徴です。
CSR活動においても、環境保護や地域社会への貢献を通じて、ブランドステートメントが示す「心の豊かさ」の実現を目指しています。
このように理念と実体験が高い一貫性を持つことで、スターバックスは単なるコーヒーチェーンを超えたブランド価値を築いているといえるでしょう。
企業を支える理念づくりならCultiveまで
ブランドステートメントは、企業の価値観や方向性を明確に示す重要な軸であり、社内外に一貫したメッセージを届ける役割を果たします。
これは、企業文化をつくる礎でもあり、メンバーが迷いなく価値を生み出し続けるための指針でもあります。
会社の想い、プロダクトへの誇り、サービスでの気配り、そして顧客や社会への想いをあらためて確認しながら、ぜひ「うち“らしい”ステートメント」を考えてみてください。
Cultiveでは、こうしたブランドの核を活かした組織文化の醸成やエンゲージメント向上、賞賛文化につながる社内イベントなどを通じて、企業の成長と従業員の幸せをトータルでサポートしています。
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