以前の記事で、会社の大切とする価値観や理念(ビジョン、ミッション、バリューなど)を社内浸透させていく上で欠かせない”インナーブランディング”についてご紹介しました。
効果的なインナーブランディングができれば、会社の目指す理想像やブランド価値をメンバーに浸透させることができます。それはひいては、メンバーのエンゲージメントやパフォーマンス向上に繋がると考えられています。
では、そのような効果的なインナーブランディングはどのように行われているのか。
今回は、実際にインナーブランディングに成功している企業例を参考にして見ていきましょう。
目次
なぜスターバックスはインナーブランディングに成功しているのか
インナーブランディングの成功例としてよく挙げられるのが、根強い人気を誇るスターバックスです。日本全国で1,800近い店舗を構え、季節ごとに発売されるメニューへのファンも多いと思います。テレビCMなどの広告をほとんど利用せず、「店舗体験こそが最大のマーケティングになる」と考えているからです。多くの人を満足させられるような店舗づくり、メンバーの育成はどのようなマインドで行われているのでしょうか。
スターバックスのミッション/バリュー
ミッション
人々の心を豊かで活力あるものにするためにー
ひとりのお客様、一杯のコーヒー、そしてひとつのコミュニティから
バリュー
私たちは、パートナー、コーヒー、お客様を中心とし、Valuesを日々体現します。
お互いに心から認め合い、誰もが自分の居場所と感じられるような文化をつくります。
勇気をもって行動し、現状に満足せず、新しい方法を追い求めます。
スターバックスと私たちの成長のために。
誠実に向き合い、威厳と尊敬をもって心を通わせる、その瞬間を大切にします。
一人ひとりが全力を尽くし、最後まで結果に責任を持ちます。
私たちは、人間らしさを大切にしながら、成長し続けます。
引用元:Starbucks
上記で特徴的なのはバリューの内容です。
メンバーの行動指針ともなるバリューでは、通常、顧客に価値提供をするための行動規範を挙げることが一般的です。しかし、スターバックスのバリューの多くが「仲間とより良く働く環境のために」という目的のために語られています。
また、従業員を「パートナー」と呼ぶことからも、会社がいかに店舗従業員を大切に思っているかが表れています。
店舗従業員を「最高の店舗体験を共に生み出し、顧客に届けるパートナー」として捉えているスターバックスは、そのチームワークや個々人の意識を向上させることで、結果としてユーザーへの価値提供に繋げています。
マニュアルの不在とグリーンエプロンブック
従業員に対するスターバックス固有の価値観は、他の点にもよく表れています。それは、飲食業としては異例の「接客マニュアル」の不在です。スターバックスはマニュアルを定めていない代わりに、ビジョンと行動指針の書かれた「グリーンエプロンブック」を配り、従業員はこれを行動規範として活用します。
また、「グリーンエプロンブックカード」という特徴的な文化も持っており、ビジョンや行動指針を体現した仲間にこのカードを送り合うという習慣があります。
このカードには5種類あって、
- 歓迎する
- 心を込めて
- 豊富な知識を蓄える
- 思いやりを持つ
- 参加する
という、最高な店舗体験を提供する上で欠かせない要素に分かれています。
スターバックスの従業員はお互いの良い行動を発見したら、それぞれのテーマに合わせてカードを書いて賞賛します。
この取り組みによって、お互いの観察力と褒める力を養うだけでなく、賞賛されるような体現イメージを共有し合うことができます。それらの経験を通して、接客マニュアルを持たない従業員たちは、ユーザーに喜んでもらえるサービスを自発的に学び、行動に移していくのです。
有名な、カップへの手書きのメッセージなどもこのようなマインドの中で生まれたものだと言えるでしょう。
オリエンタルランドの「神対応」はどのようにして生まれたか
インナーブランディングの成功例といえば、東京ディズニーランドと東京ディズニーシーを運営するオリエンタルランドも欠かせません。休日を過ごしに行って、その「神対応」に感動した方も多いのではないでしょうか。
あの行き届いたホスピタリティはスタッフ一人ひとりの志があってこそ。では、そのマインドはどのようにして養われるのでしょうか。
オリエンタルランドの企業理念
企業使命
自由でみずみずしい発想を原動力に
すばらしい夢と感動
ひととしての喜び
そしてやすらぎを提供します。
行動指針
- 探究と開拓
- 自立と挑戦
- 情熱と実行
引用元:オリエンタルランド
日本屈指のテーマパークを運営するオリエンタルランドにとって、利用者が感動するような体験を提供するということは非常に重要になります。そのために企業がメンバーに求めていることは、一人ひとりの発想力と行動だと言えるでしょう。企業使命と行動指針からも、いかに個々人のアイデアや実践を期待しているかが読み解けると思います。
「キャスト」と「ゲスト」
ご存知の方も多いと思いますが、オリエンタルランドではテーマパーク従業員を「キャスト」、利用者のことを「ゲスト」と呼びます。そして、ゲストに感動体験を届けるためにキャスト一人ひとりが「魔法をかける役割」を担うのだと教えられます。
また、キャストには「役者」「出演者」といった意味があります。
テーマパークをひとつの舞台として、従業員が自らを重要な役割を持った出演者であると認識すること。これは、メンバーのモチベーションを向上させ、ゲストを楽しませるための自発的な行動を生み出す効果があると思われます。
マニュアルではなく、讃え合う文化
スターバックスの例に漏れず、オリエンタルランドもまた、サービスマニュアルを持ちません。キャスト一人ひとりが自由な発想でゲストを楽しませるべき、という考えのもとでは、マニュアルはかえって邪魔となります。オリエンタルランドはマニュアルの代わりに理念への共感を高めることで、個々人の高いパフォーマンスを引き出しています。
また、オリエンタルランドはキャストのモチベーションや参加度を高めるための施策にも意欲的に取り組んできました。仲間同士で体現行動を讃え合う「スピリットアワード」、上司から部下キャストに贈られる「ファイブスターカード」、休日に担当分野外の業務を体験できる「デュアル・キャスト・エクスペリエンス制度」なども施策のひとつです。
こうしてキャストの意識や繋がりを強めることで、オリエンタルランドは他にはない夢の空間を創り出しています。
海外企業Zapposのインナーブランディング
Zappos(ザッポス)は靴製品を始めとしたアパレル製品を扱うアメリカの企業です。Amazonが800億円で買収したことでも有名ですが、買収当時には「Zapposの独立した経営を守る」という約束が交わされたことでもよく知られています。それほどまでにZapposの経営方針、そして企業文化はオリジナルであり、それこそがこの会社が成功した最大の理由であるとも言われています。
Zapposのコアバリュー
企業理念
“WOW”を叶えるために生き、配達する
コアバリュー
- サービスを通じて”WOW”を届ける
- 変化を受け入れ、推進する
- 楽しさと、ちょっと変わったことを創る
- 冒険的に、創造的に、オープン・マインドで
- 成長と学びを追求する
- コミュニケーションを通じて、オープンで素直な人間関係を
- ポジティブなチーム・家族精神を育む
- 小さな努力で、大きな結果を出す
- 情熱と強靭な意志
- 謙虚でいること
引用元:Zappos
Zapposのコアバリューには、メンバーに求める人柄や、同僚との連携の重要性が語られています。彼らはこのバリューを体現するために、専門チームによる定期トレーニングをメンバーに行います。その実施時間は250時間以上にも及ぶと言います。
また、採用の際にも、数ヶ月に渡って採用候補者との面談を重ねて自社文化にフィットするかを判断します。
これは、Zapposが経営の根幹として「文化と人」を最重要視しているからです。では、そのマインドはどのようなものなのでしょうか。
自由でユニークな文化
Zapposは利益よりも企業文化を優先して考えます。その企業文化の根幹にあるのが「従業員が幸せでいること」です。幸せな人がサービスを届けるからこそ、ユーザーにも幸せになってもらえる。彼らはそう考えています。
そのため、Zapposには従業員が幸福であるためのユニークな文化が数多く存在しています。
- ペット同伴可能なオフィス
- 固定制のデスクは個性豊かに装飾してよい
- オフィス内に昼寝スペースはある
- 従業員同士で表彰できる制度
- 理念を体現した人に贈られる社内通貨「ZOLLARS」
- 毎年、メンバーが創刊している「ザッポス・カルチャーブック」
「ザッポス・カルチャーブック」は毎年メンバーが作っているものですが、理念の体現を示す様な事例やユーザーとの間で生まれた事例などが大量に記されています。
こうした文化施策を通して、メンバーは自主性を得て、理念の再現度が高い行動を取るようになっていくのでしょう。
“人”こそが最大のブランディング
Zapposでは、より上質で感動的なサービスを届けるために、意思決定のほとんどはメンバー個々人に委ねられています。結果として、Zapposの行き届いたサービスを示す逸話は数多く存在しています。
- 購入した靴は、外で履かない限り365日返品可能。返品代も送料も無料
- 24時間・年中無休のコールセンターを開設
- 深夜、自社には関係のないホテル宿泊客のために配達してくれるピザ屋を探す
- コールセンターで7時間に渡り相談に乗る
- たった一人のユーザーの希望に応えるために、障害者向けの製品サービスを立ち上げてNIKEとコラボに至る
こうしたサービスのほとんどが、メンバー個々人の自発的な行動によって生まれています。そして、その行動を会社が推奨することこそが、メンバーに新たな自発性を生み出す後押しとなり、根強いファン獲得に繋がっています。「メンバーの行動こそが最大のブランディングになる」という経営者の考えが、インナー向けにも効果的に働いている例と言えるでしょう。
いかがでしたか?
インナーブランディング施策には企業の価値観が色濃く反映されます。効果的なインナーブランディングは、理念の解像度を高め、社員の業務レベル向上に繋がります。また、一過性の取り組みではなく継続性を持たすことで、社内文化として定着することも望めます。
自社の理念や価値観と照らし合わせて、効果的なインナーブランディング施策を考案してみましょう。
なお、Cultive(カルティブ)では、上質な企業文化づくりを通して、企業も社員も幸せになれる事業成長をサポートしています。インナーブランディングにお困りの際はぜひご相談ください。
この記事を書いた人
小名木 直子
Producer
オリジナルウェディングのプロデューサーとして多くのイベント企画に携わる。小人数〜200人規模のイベントを得意とする。職場の中でどれだけ心が動く瞬間があるかで人生の幸福度が変わることを実感し、多くの人にCultiveのサービスが届くようWEBサイトの監修も担う。
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