企業における組織力とは
組織力とは、学術的には「共通の目標達成に向けて、個々の能力を結集したときに発揮する実行力や影響力、組織の持つ力」と定義されています。これは、それぞれの役割やお互いの協力によって生み出される付加価値(能力)に焦点を当てたものです。
一方、ビジネス現場での組織力は、より実践的な意味合いを持ちます。例えば、情報共有や意思決定の速さ、個人の能力の最大化、組織全体の方向性の一致、変化への適応力です。
これらの要素が複合的に作用し、組織として高いパフォーマンスを発揮できる状態が「組織力がある」といえます。どれほど優秀な個人が集まっていても、組織として機能しなければ成果は生まれません。だからこそ、組織力は企業の生産性や競争力を高めるうえで非常に重要です。
組織力とチーム力・企業力の違い
「組織力」「チーム力」「企業力」は、似ていますがそれぞれ異なる概念です。
「組織力」とは、部門や部署といった組織単位で目標達成に向けて協力し合う力を指します。「チーム力」はもっと小さなグループやプロジェクトチーム内の連携や信頼関係に重きを置いたものです。そして「企業力」は経営資源やブランド力、技術力といった会社全体の競争力を意味します。
例えば、日々の業務改善にはチーム力が求められるでしょう。部門間の連携については組織力、経営全体の方向性や会社の将来性を語るときには、企業力が使われます。
このように、それぞれ対象範囲や活用場面が異なるため、状況に応じて使い分けるようにしましょう。
組織力を構成する主な要素
組織力を構成する主な要素としては、以下のものがあります。
- コミュニケーション能力
- リーダーシップとマネジメント能力
- チームワークと協調性
- 柔軟性と変化対応能力
- 明確なビジョン設定と戦略共有
- 従業員の心理的安全性の確保
どうすればこれらの要素や能力を高められるのでしょうか。具体的に見ていきましょう!
コミュニケーション能力
組織力のベースとなるのが、コミュニケーション能力です。これは、業務効率の向上やチームの一体感醸成、問題解決に大きく影響します。
具体的には、情報共有の質を高め、相手の話を聴き、的確な伝達力を持つことです。例えば、指示が曖昧だったために納期を間違えるなど、業務のミスやトラブルは、コミュニケーション不足によることが少なくありません。
上下関係や部署を超えてスムーズな情報共有ができれば、問題の早期発見や予防にもつながります。信頼関係を築く土台として、メンバー同士の丁寧な対話や、報告・連絡・相談の徹底は欠かせません。
リーダーシップとマネジメント能力
リーダーシップとマネジメント能力は「方向性を示す力」と「人を動かす力」という、組織をけん引する重要な柱となります。
ここでいうリーダーシップとは、組織の明確なビジョンを提示し、メンバーの意欲を引き出して自発的な行動を促す力のことです。一方、マネジメントとはビジョン達成に向けた具体的な計画立案や実行の評価、改善を繰り返す能力をいいます。
リーダーやマネージャーの力量は組織力に直結します。特に一方的な指示ではなく、メンバーの意見を引き出しながら方向性を示すリーダーの姿勢は、組織全体のモチベーションと成果につながるでしょう。
現場の声に耳を傾け、メンバーを支援するサーバントリーダーシップや支援型マネジメントといった視点を取り入れることで、個々の力を最大限に引き出す強い組織を築けます。
チームワークと協調性
組織内にどれだけ優れた人材がいても、チームワークと協調性がなければ成果が出にくくなってしまいます。チームで最大限の力を発揮するには、次の3点が重要です。
- 目標の共有
- 助け合いの姿勢
- 役割分担の明確化
例えば「誰が何をすべきか」が曖昧なままだと、責任の押し付け合いが起きたり、作業が滞ったりしてしまいます。しかし、お互いの強みや得意なことを理解し、役割を明確にしながら連携できるチームでは生産性が高まるでしょう。
「優秀な人がいれば大丈夫」と考えるかもしれませんが、個人が優れていてもチームとして機能しなければ、秀でた能力も孤立してしまいます。これからの時代は「個ではなく、チームで成果を出す」という意識を持つことが、強い組織を作るポイントです。
柔軟性と変化対応能力
社会や市場が予測しにくいVUCA時代において、企業は変化への柔軟な対応力が求められます。
変化に素早く対応できるかどうかは、企業の存続を左右します。例えば、コロナ禍でいち早くテレワークを導入した企業は、業績への打撃を抑えられました。
変化に強く柔軟性の高い企業になるためには、現場の声を吸い上げる「ボトムアップ」の姿勢や、一人ひとりが自律的に判断し行動できる企業文化が大切です。マニュアルどおりではなく、状況に応じて最善を選べるような柔軟な組織づくりが求められています。
明確なビジョン設定と戦略共有
組織力を最大限に引き出すためには、ゴールを明確にし組織全体で共有することが大切です。
組織のビジョンが不明確だったり、現場の隅々まで浸透していなかったりすると、それぞれが違う方向を向いてしまい、組織全体の力が分散してしまいます。
経営層と現場が明確な目標を共有していた場合、もし判断に迷うような状況に直面してもブレずに最適な行動を選択できます。結果として無駄な業務が減り、部門間の連携もスムーズになるでしょう。
だからこそ、組織全体で一つの目標に向かって進む意識は、組織力を築くうえで重要です。
従業員の心理的安全性の確保
Googleの研究「プロジェクト・アリストテレス」によれば、成果を上げるチームには「心理的安全性」が欠かせないとされています。心理的安全性のある職場とは、メンバーが「安心して意見をいえる・自分らしくいられる環境」が整っている職場です。
メンバーが意見を自由に出せる職場ではさまざまな視点から物事を考えられるため、創造性が高まり課題を発見しやすくなります。結果としてチーム全体でよりよい解決策が生まれ、目標達成へとつながります。
日本企業では、上下関係の遠慮や空気を読む文化がメンバーの自由な発言を妨げることがあります。この企業文化を変えられる取り組みができれば、心理的安全性の高い環境づくりができるでしょう。
組織力を高める具体的な施策
組織力を高めるためには具体的にはどのような方法があるのでしょうか。ここでは明日から実行できる7つの施策を紹介します。
- 社内コミュニケーションの活性化
- 適切な人材配置と育成
- 評価制度・目標管理制度の見直し
- 働きがいのある職場づくり
- 従業員のミスをサポートする風土づくり
- 業務上の課題を見える化し解決策を提案
- ダイバーシティ(多様性)の推進
社内コミュニケーションの活性化
社内コミュニケーションの活性化は、組織力の基盤となる「風通しのよさ」と「意見の共有」を促します。風通しがよくないとせっかくの素晴らしいアイデアも十分に活かされず、連携もスムーズに進みにくくなってしまいます。
社内コミュニケーションを活性化させるためには、日々の会議や上司との1on1の面談、チャットツールなどをうまく使うのが効果的です。情報のやり取りや意見交換がスムーズになり、お互いの信頼を深め一人ひとりの成長も促されます。
また朝会や雑談スペースの設置、社内報の発行なども有効です。これらの取り組みで上司と部下の関係がフラットになり、現場の声が届きやすくなるでしょう。
適切な人材配置と育成
組織全体のパフォーマンスを高めるには、一人ひとりの特性や強みを最大限に引き出す人材配置と育成をしなくてはなりません。個々の能力が適切に活かされなければ、組織は本来持っている力を十分に発揮できないからです。
個人の能力と組織のニーズを効果的に結びつけるため、スキルマッチングや適性検査の導入、キャリア希望のヒアリングをおこなう企業が増えています。
また、人材育成は座学の研修だけでなく、現場での経験機会やメンター制度を活用すると効果的です。
重要なのは、配置転換が「評価」ではなく「最適なパフォーマンスのための配置」であると組織全体で認識できていることです。この認識があれば、メンバーは自身の成長を追求しながら、組織全体の成果にも貢献しやすくなります。個人の成長と組織の発展が両立する、よい循環が生まれるでしょう。
評価制度・目標管理制度の見直し
公正で納得感のある評価制度は、組織のモチベーションを高めます。評価の基準が不公平だったり、プロセスが不透明だったりすると、メンバーのやる気や組織全体の活力が上がりません。
具体的にはMBO(目標管理)やOKR(目標と主要な結果)のような目標管理制度の導入が効果的です。個人の成果だけでなく、チームでの成果も評価対象に含めるとメンバー間の協力や話し合いの意識が高まるでしょう。
また、評価結果をしっかりフィードバックすることも大切です。公正な評価と適切なフィードバックを通じて、メンバーは自身の成長を実感します。それが組織全体のパフォーマンスアップにもつながります。
働きがいのある職場づくり
離職を防ぎメンバーのエンゲージメントを向上するには「働きがい」のある職場づくりが重要です。
「働きがい」とは仕事をとおして得られる喜びや充実感、自己成長の実感をいいます。メンバーが自主的に仕事に取り組めるような制度や文化を育むことは、働きがいのある職場づくりの第一歩となるでしょう。
具体的には、フレックスタイム制の導入や各個人への裁量権の付与、優れた成果を称える表彰制度などがあります。いずれもメンバーの自主性を引き出す有効な手段です。
また、新しいプロジェクトへの挑戦やスキルアップ支援などの成功体験を積む仕組みがあると、仕事への満足感を高められるでしょう。
「働きがい」と「働きやすさ」は異なる概念ですが、メンバーが長く活躍できるような職場環境を築くことで、組織力の向上が期待できます。
メンバーのミスをサポートする風土づくり
組織を強くするにはミスを責めるのではなく、学びの機会へと変える文化をつくることが大切です。原因の分析や、再発防止に努める姿勢を重視することで、メンバーは安心して新しいことに挑戦できます。
例えば、失敗事例を共有するナレッジ会や反省ノートの導入は、個人の失敗から得られる学びを組織全体の成長へとつなげる効果的な方法です。
まずは上司やリーダーが率先して「失敗しても大丈夫」という姿勢を示すと、メンバーが挑戦しやすくなるでしょう。
業務上の課題を見える化し解決策を提案
業務のボトルネックになる部分を明確にし改善すると、組織力強化に直結します。
具体的な方法として、タスク管理ツールやKPIの可視化、業務フロー図の活用などが挙げられます。これらを用いると、課題がどこにあるのかの「見える化」が可能です。
さらに、現場からの課題提案制度や改善案に対する報奨制度を設けると、メンバーが「もっと良くしたい」と自然に考え、行動できるようになるでしょう。
ダイバーシティ(多様性)の推進
変化の激しい現代において、多様な価値観や視点を受け入れる組織文化は大切です。性別や年齢、国籍、ライフスタイルに関わらず誰もが活躍できる職場を築くことで、組織の創造性や柔軟性は格段に高まります。
例えば、女性管理職の積極的な登用やLGBTQへの配慮、障がい者雇用の促進などは、多様な人材がその能力を最大限に発揮できる環境づくりの一例です。さまざまな背景を持つメンバーが互いに刺激し合うことで、新たなアイデアが生まれやすくなります。
ただし、ダイバーシティの推進は目的ではなく手段です。多様性を尊重し受け入れることは、組織の活性化やより大きな成果を生み出すでしょう。
組織力の診断・測定方法
組織力は抽象的ととらえられがちですが、実際には測定・可視化が可能です。「なんとなく組織の調子が悪い」と感じるだけでなく、客観的なデータや手法を活用することで、組織の強み・弱みを把握し、改善につなげられます。
ここでは、実務で活用されている診断・測定方法を3つ紹介します。
- 組織診断ツールやアンケートの活用
- 定量的指標(業績、離職率、エンゲージメント)の測定
- 組織開発(OD)による改善アプローチの導入
組織診断ツールやアンケートの活用
組織の現状を正確に把握することは、改善への第一歩です。改善のためにはアンケートや外部ツールの活用が非常に有効となります。
例えば、エンゲージメントサーベイや組織風土診断、Pulse Surveyなどがよく使われています。無記名アンケートや簡易チェックリストはメンバーの率直な意見が集まりやすいため、心理的安全性やコミュニケーションの課題もわかるでしょう。
ただし、アンケートの質問設計には中立性を持たせ、目的を共有することが重要です。回答の回収後も分析と丁寧なフィードバックを行い、組織改善へとつなげましょう。
定量的指標(業績、離職率、エンゲージメント)の測定
組織力を客観的にとらえ見直していくためには、いくつかの定量的指標を用いて数値で見る方法が有効です。
例えば、離職率が高ければ、職場に定着しにくい原因があるかもしれません。売上や利益の伸び悩みは、社内の連携や実行力に何らかの問題があると考えられます。また、エンゲージメントスコアや従業員NPS(推奨度)などの調査結果も、メンバーのモチベーションや信頼感を知る手がかりになります。
指標は一つだけで判断するのではなく、いくつか組み合わせて分析することが大切です。偏りのない診断ができ、組織の改善点が明確になるでしょう。
組織開発(OD)による改善アプローチの導入
組織力の向上を目指すときは「測定→分析→改善」を一貫しておこなう組織開発(OD: Organization Development)の導入も有効なアプローチです。
ODは、人と組織の成長を支援する計画的な取り組みで、対話やコーチングなどを通じて、組織全体の関係性や行動を変えていきます。外部ファシリテーターへの支援の依頼やワークショップ、チームビルディングに向けた取り組みをすることで、客観的な視点と専門性を持ちながら、スムーズに業務を進められるでしょう。
ただし、ODは短期的な成果だけを求めるものではありません。中長期的な視点でじっくりと取り組むことで、組織が安定して発展し続けられます。
組織力の向上に成功した事例
理論や施策を理解しても「実際に効果があった企業は本当にあるの?」と疑問を持つ方も多いでしょう。
ここでは、組織力の向上に成功した3つの企業の事例を紹介します。
- メルカリの組織力向上施策
- パナソニックの組織力向上施策
- オリエンタルランドの組織力向上施策
メルカリの組織力向上施策
急成長企業として注目されたメルカリは、働き方やライフスタイルの多様化、海外展開を進めるなかで、組織内のコミュニケーションに課題を抱えていました。そこでメルカリは「共通の価値観」をまとめた社内向けドキュメント「Mercari Culture Doc(カルチャーデック)」を全社で共有することで組織文化を整えました。
また、多様性を重視したチーム作りや、バックグラウンドの異なる人材が活躍できるような取り組みにも力を入れています。
さらに、誰もが安心して意見をいえる「心理的安全性」の高い職場を目指しています。例えば、働き続けるうえでの不安を取り除くための人事制度「「merci box(メルシーボックス)」を導入しました。評価制度の見直しでは、成果だけでなく「カルチャーデックに対する姿勢や行動」も評価の軸に加えています。
こうした工夫によって、メルカリはスタートアップから上場企業へと成長するなかでも、組織としてのまとまりと柔軟さを両立して成功しているといえるでしょう。
パナソニックの組織力向上施策
100年以上の歴史を持つパナソニックは、旧来の縦割り体制や終身雇用的な人事制度からの脱却を進め、変化に対応できる組織づくりに取り組んでいます。
現在は廃止していますが、過去には「社内カンパニー制」を導入していました。これは、各事業部門を独立した経営単位とし、意思決定のスピードと現場裁量を高める仕組みです。
現在はジョブ型雇用へ移行し、スキルや役割に基づいた人材配置を強化しています。これは、人事制度を見直す大きな改革です。多様性・包摂性(D&I)推進にも注力しており、女性管理職の登用やシニア社員の活用も強化しています。
改革を進めるにあたっては、トップダウンだけでなく、現場とのコミュニケーションを重視してきました。メンバーの声を反映させることで、改革に対する納得感と参加意識を高め、組織全体の一体感と変化への対応力を向上させています。
オリエンタルランドの組織力向上施策
東京ディズニーリゾートを運営するオリエンタルランドは、キャスト(従業員)を大切にする独自の文化によって高いお客様満足度を誇っています。
オリエンタルランドは「キャスト第一主義」を掲げています。これはキャストが活き活きと働くことで、ゲスト(お客様)は最高の体験を得られるという考えです。
理念を単なる言葉だけにせず、日々の仕事にも深く根ざしています。具体的には、充実した教育制度や詳細なマニュアル整備、キャストを称賛する「ファイブスター・プログラム」です。
このように、組織理念と現場の行動が一致しているからこそ組織全体が一丸となり、常に質の高いサービスを提供できます。この一貫性が、多くのゲストを魅了し続ける秘訣といえるでしょう。
まとめ
組織力を高めるには、コミュニケーション能力やリーダーシップ・マネジメント能力、変化への柔軟な対応力がとても大切です。
例えば、社内コミュニケーションの活性化や評価制度の見直しなど、明日からでも始められる具体的な行動で、組織力は確実に高められます。また、今の組織力がどのくらいか知りたい場合は、組織診断ツールや売上・離職率などの数字を使ってみるのがおすすめです。
私たちCultive(カルティブ)は、目には見えづらい会社の文化や“らしさ”を抽出し、クリエイティブの力でカタチを与えます。そして、受け取った人たちの心が震えるようなストーリーを企画し、イベントや文化施策の実施までをサポートいたします。
組織力向上に向けた取り組みについて、具体的な施策の導入から継続的な改善まで、お客様のニーズに合わせたサポートをご提案します。
「もっと強い組織にしたい」「メンバーが生き生きと働ける会社にしたい」とお考えでしたら、ぜひお気軽にご相談ください!