企業メッセージの意味と重要性
企業メッセージとは、企業が自社の理念や姿勢、価値観を社内外のステークホルダーに向けて伝えるためのメッセージ(フレーズ)のことです。
会社の存在意義や目指す方向性を簡潔な言葉で表現したもので、企業の顔となる重要なコミュニケーションツールといえます。
企業メッセージは、単なる宣伝文句ではありません。会社の本質的な価値や想いを込めた言葉であり、メンバーからお客様、取引先、投資家まで、あらゆるステークホルダーとの接点で活用される基盤となります。そのため、企業の成長や組織運営において非常に重要な役割を果たします。
なぜ多くの企業が企業メッセージの策定に力を入れているのか、そして企業メッセージを設定することでどのような効果が期待できるのかを、詳しく見ていきましょう。
企業メッセージを設定する目的
企業メッセージを設定する主な目的は、企業の価値観や方向性を明確に伝え、社内外で共通認識を形成することです。
現代のビジネス環境では、企業の透明性や一貫性がより重視されており、明確なメッセージがあることで信頼性の向上につながります。
企業メッセージを設定することで得られる具体的な効果は以下のとおりです。
- ブランディング効果の向上:一貫したメッセージによって企業のイメージが明確になり、市場での差別化が図れます
- 採用力の強化:企業の価値観に共感する人材の獲得がしやすくなり、ミスマッチの減少も期待できます
- 社内の結束力向上:共通のメッセージにより、メンバーの方向性が統一され、組織の一体感が生まれます
- お客様との関係性強化:企業の想いが伝わることで、お客様との感情的なつながりが深まります
- 広報・マーケティングの軸として活用:各種コミュニケーション施策の基準となり、一貫性のある発信が可能になります
- 意思決定の指針:経営判断や日常業務における行動指針としても機能します
これらの効果により、企業メッセージは単なる言葉以上の価値を持ち、組織全体の成長を支える重要な要素となるのです。
スローガンやタグラインとの違い
企業メッセージと混同されやすい用語として、「スローガン」「タグライン」「キャッチコピー」などがあります。
これらの違いを明確に理解することで、より効果的な企業メッセージを作成できます。
用語 | 特徴 | 目的 | 例 |
---|---|---|---|
企業メッセージ | 企業の理念や価値観を表現する包括的なメッセージ | 社内外への価値観の伝達 | 「お客様第一主義」 |
タグライン | 企業やブランドを象徴する短いフレーズ | 外部向けのブランド認知 | 「Just Do It」(Nike) |
スローガン | 特定の期間や目標に向けた行動を促す標語 | 社内の団結や行動促進 | 「みんなで頑張ろう2025」 |
キャッチコピー | 商品やサービスの魅力を伝える宣伝文句 | 商品・サービスの訴求 | 「カラダにピース」(カルピス) |
企業メッセージは理念寄りで長期的に使用されるものである一方、タグラインは外部向けの短文でブランド認知を目的とし、スローガンは一時的な目標達成のための標語、キャッチコピーは商品の魅力を伝える宣伝文句という位置づけになります。
これらの違いを理解した上で、自社にとって最適な企業メッセージを検討することが重要です。
企業メッセージを作る前に明確にすべき3つのこと
効果的な企業メッセージを作成するには、土台となる要素を事前に明確にしておく必要があります。
以下の3つのポイントを整理することで、一貫性と説得力のあるメッセージを生み出すことができます。
- ミッション・ビジョン・バリューを整理する
- ターゲットと市場ポジションを明確化する
- 社内外で一貫性を持たせる意識をつくる
ひとつずつ順番に見ていきましょう。
①ミッション・ビジョン・バリューを整理する
企業メッセージを作成する前に、まず「ミッション(使命)」「ビジョン(目標)」「バリュー(価値観)」を明確に整理することが重要です。
これらは企業の根幹を成す要素であり、企業メッセージはこれらの上位概念を要約する表現として機能します。
企業メッセージは、これらMVVの本質的な部分を一つの言葉やフレーズに集約したものです。そのため、自社の中核となる価値観や方向性を言語化する準備段階として、MVVの整理は欠かせません。
例えば、トヨタ自動車では「お客様第一主義」というミッション、「もっといいクルマづくり」というビジョン、「改善」「尊重」「チームワーク」といったバリューから、「Drive Your Dreams」というグローバルメッセージが生まれています。
このように、明確なMVVがあることで、一貫性のある力強いメッセージを作ることができるのです。
②ターゲットと市場ポジションを明確化する
企業メッセージは「誰に向けて発信するか」「自社の強みは何か」によって大きく変わるため、ターゲットと市場でのポジションを明確にすることが重要です。同じ商品・サービスを扱っていても、ターゲット層や競合他社との差別化ポイントが異なれば、最適なメッセージも変わってきます。
ターゲット設定では、BtoB向けかBtoC向けか、若者向けか高齢者向けか、国内市場か海外市場かといった基本的な切り口から検討を始めましょう。
さらに、詳細なペルソナ設定を行なって具体的なお客様像を描くことで、より響きやすいメッセージを作成できます。
市場ポジションの明確化では、自社の強みや特徴を競合他社と比較して整理します。ポジショニングマップを作成し、価格軸や品質軸、サービス軸などで自社の立ち位置を視覚化すると、差別化ポイントが見えてきます。
③社内外で一貫性を持たせる意識をつくる
企業メッセージは「社内向け(理念・行動指針)」と「社外向け(ブランディング・広告)」の両方で活用されるため、どちらの場面でも”ブレない表現”が求められます。社内外でメッセージの印象が異なると、ステークホルダーに混乱を与え、企業の信頼性を損なうようなさまざまなリスクがあります。
例えば、外部に発信しているメッセージと実際の企業文化が異なると、転職者のミスマッチや炎上リスクが高まります。
また、メンバーが企業メッセージに共感できない場合、社内での反発やモチベーション低下のにつながることもあります。
そのため、企業メッセージの策定段階から、社内外で一貫性を保つことを意識することが重要です。メッセージがメンバーにとって納得感があり、日常の行動に落とし込めるものであることを確認しましょう。同時に、外部のステークホルダーにとっても魅力的で理解しやすい表現になっているかを検証する必要があります。
伝わりやすい企業メッセージの作り方
ここからは、具体的な企業メッセージの作成手順をご紹介します。
以下の5つのステップに沿って進めながら、社内外に響く効果的なメッセージづくりを目指しましょう。
- STEP1:伝えたい想いや強みを言語化する
- STEP2:簡潔で覚えやすいフレーズを考える
- STEP3:社内外でテスト・フィードバック
- STEP4:媒体別に活用しやすく展開する
- STEP5:定期的な見直しと更新をおこなう
ひとつずつ順番に解説いたします。
STEP1:伝えたい想いや強みを言語化する
企業メッセージ作成の第一歩は、経営者や企業の原点となる「想い」や「創業ストーリー」、お客様から見た強みを洗い出すフェーズです。
この段階では抽象的でも構わないので、まずは企業の本質的な価値や理念を言語化することが大切です。
効果的な言語化を進めるために経営陣やメンバーへのインタビューを実施したり、社内ワークショップを開催したりして、本質を掘り下げる手法を活用しましょう。「なぜこの事業を始めたのか」「お客様にどのような価値を提供したいのか」「自社の一番の強みは何か」といった根本的な問いを投げかけることで、表面的ではない深い想いを引き出すことができます。
この段階では完璧を求めず、思いつく限りの言葉やフレーズを書き出すことが重要です。
「品質へのこだわり」「お客様との信頼関係」「チャレンジ精神」「地域貢献」など、当たり前に感じられることでも、まずは言語化してみましょう。
STEP2:簡潔で覚えやすいフレーズを考える
想いや価値を明確にしたあとは、それらを「短く・強く・印象的な言葉」に落とし込む作業に入ります。
企業メッセージは、社内外のさまざまな場面で使用されるため、覚えやすく口に出しやすいフレーズにすることが重要です。
効果的な企業メッセージは、社名を言わなくても企業の特徴が伝わるような力を持っています。
例えば、ニトリの「お、ねだん以上。」は、コストパフォーマンスの良さという企業の強みを端的に表現した優れたメッセージです。
このように、企業の本質的な価値を短い言葉で表現できると、ステークホルダーの記憶に残りやすくなります。
フレーズを考える際は、語感やリズム、長さなど、コピーライティングの観点も意識しましょう。声に出して読んだときの響きの良さ、文字で見たときの視覚的なインパクト、覚えやすさなどを総合的に判断します。
また、キャッチコピーとは異なり、企業メッセージは長期間使用されるものなので、一時的なトレンドに左右されない普遍性も重要な要素です。
STEP3:社内外でテスト・フィードバック
作成したメッセージはすぐに確定せず、社内スタッフ・お客様・外部パートナーなどから意見を集めるプロセスが重要です。作り手の視点だけでは気付けない課題や改善点があるため、多角的なフィードバックを受けることで「共感性の高い言葉」に近づけることができます。
社内テストでは、役職/部署/年齢の異なるメンバーから意見を募るようにしましょう。経営陣と現場スタッフ、年齢や性別によっても着眼点や受け取り方が異なるため、幅広い層からフィードバックを得ることが重要です。
また、お客様や取引先、業界関係者などから率直な意見を貰うことも効果的です。簡単なアンケートやワークショップ形式で「企業イメージとメッセージが合っているか」「他社との違いが伝わるか」などを確認してみましょう。
このフィードバックをもとに、必要に応じてメッセージのブラッシュアップを行います。完全に作り直すのではなく、表現の微調整や補足説明の追加など、段階的な改善を重ねることで、より多くの人に響くメッセージに仕上げていけるでしょう。
STEP4:媒体別に活用しやすく展開する
完成した企業メッセージを、Webサイト・会社案内・採用ページ・プレゼン資料・SNSなど、各媒体に適した形で展開することが重要です。
媒体によって情報の伝わり方や読者の期待が異なるため、コアメッセージは保ちつつも、表現方法を柔軟に調整する必要があります。
例えば、Webサイトのトップページでは画像と組み合わせて視覚的にインパクトのある形で表示し、採用ページでは若い世代にも親しみやすいよう、やや砕けたトーンで補足説明を加えることができます。SNSでは、ハッシュタグとして活用したり、投稿の締めくくりに使ったりと、プラットフォームの特性に合わせた使い方を工夫しましょう。
プレゼン資料では、企業紹介のスライドに大きく表示して印象づけたり、提案内容との関連性を示すために引用したりすることができます。営業資料では、自社の姿勢や価値観を伝える文脈で活用し、お客様との信頼関係構築に役立てることも可能です。
STEP5:定期的な見直しと更新をおこなう
企業の成長や社会環境の変化に応じて、メッセージの内容も定期的に見直すことが重要です。ただし、頻繁に変更してしまうとブランドがブレるリスクがあるため、コアとなる価値観は保ちつつ、表現や強調点をアップデートするという考え方で取り組みましょう。
見直しのタイミングとしては、創業◯周年の節目、株式上場、事業領域の拡大、ビジョンの刷新、経営陣の交代などの大きな変化があった際が適切です。また、市場環境の変化や競合状況の変化により、従来のメッセージでは差別化が難しくなった場合も、見直しを検討するタイミングといえるでしょう。
見直しをおこなう際は、現在のメッセージがステークホルダーにどのように受け取られているかを調査し、課題や改善点を把握することから始めます。
社内アンケートやお客様へのヒアリング、ブランド認知度調査などを活用して、客観的なデータを収集しましょう。
社内外に伝わる!企業メッセージの成功事例10選
ここでは、さまざまな業界の大手企業から、印象的で効果的な企業メッセージの事例をご紹介します。
各社のメッセージから、自社らしい表現のヒントを見つけてみましょう。
企業名 | メッセージ | 意図・背景 |
---|---|---|
トヨタ自動車 | Drive Your Dreams | グローバルで夢や可能性を追求する姿勢を表現し クルマを通じた豊かな社会の実現を目指している |
ソニー | BE MOVED | 人を感動させるモノづくりへの情熱と エンターテインメントとテクノロジーの融合による価値創造を表現 |
楽天 | イノベーションを通じて、人々と社会をエンパワーメントする | 技術革新による社会貢献と 個人・企業の可能性を最大化する使命を示している |
ユニクロ | 服を変え、常識を変え、世界を変えていく | ファッションを通じた社会変革への強い意志と グローバル企業としての責任感を表現 |
資生堂 | 美の力によるエンパワーメント | 美容の力で人々の人生をより豊かにし 社会によい変化をもたらすという企業理念を表現 |
パナソニック | A Better Life, A Better World | よりよい暮らしと社会の実現への貢献を通じて 持続可能な成長を目指す姿勢を示している |
日本電信電話(NTT) | Your Value Partner | お客様との価値共創パートナーとして デジタル社会の発展に貢献する企業姿勢を表現 |
三菱重工業 | Mission Net Zero | カーボンニュートラル社会の実現という 社会課題解決への強いコミットメントを示している |
セブン-イレブン | 近くて便利 | 身近で利便性の高いサービス提供により 日常生活をサポートするという基本的な価値を表現 |
花王 | 豊かな共生世界の実現 | 多様性を尊重し、人と自然が調和した持続可能な 社会の構築を目指す企業理念を表現 |
優れたメッセージは簡潔にまとめられており、その企業が目指している世界観や価値を直感的に伝えるものになっています。
自社の理念や想い、歴史を振り返りながら、それらが表現されたメッセージを考案してみてください。
企業メッセージを社内外に浸透させる方法
企業メッセージを作るだけで終わらせず、「伝え方・使い方」の段階でどう活用するかが成功の鍵となります。
以下では、社内向け・社外向けそれぞれの浸透施策と、長期的な活用のための仕組みづくりをご紹介します。
- 社内向け:メンバーへの共有・浸透施策を実施する
- 社外向け:広告・Web・SNSでメッセージを活用する
- ブランドガイドラインにも企業メッセージを組み込む
順番にひとつずつ解説いたします。
社内向け:メンバーへの共有・浸透施策を実施する
メンバーが企業メッセージを「理解し、自分ごと化」するためには、日常業務に根ざした継続的な浸透施策が不可欠です。単なる周知ではなく、メッセージが実践可能なものとして定着することで、組織全体の一体感と行動力を高められます。
具体的な施策として、朝礼やチームミーティングでの定期共有、企業メッセージを解説したブランドブックの配布、オフィス内掲示ポスターの設置などが考えられます。例えば、1on1ミーティングなどで「今月の業務とメッセージの関連性」をメンバーと話し合うことで、個人レベルでの深い理解を促進することも期待できます。
さらに、部署ごとのワークショップで「自分たちの業務でメッセージをどう体現するか」を話し合う機会を設けることも重要です。管理職層がメッセージの意味を理解してメンバーへ伝達していくことで、企業メッセージが日々の行動に現れ、組織文化として根づきます。
社外向け:広告・Web・SNSでメッセージを活用する
完成したメッセージを各種媒体で効果的に活用し、企業のブランド認知度と好感度向上を図ります。それぞれのメディア特性に合わせた展開により、より多くのステークホルダーにメッセージを届けることが可能になります。
Webサイトでは印象的な画像やデザインと共にトップページに掲載したり、会社概要ページでの企業理念とセットで紹介することが考えられます。
SNSでは投稿の締めくくりハッシュタグや企業取り組み紹介時の自然な引用が効果的です。また、テレビCMやWebバナー、交通広告で企業名とセット表示し、営業資料では自社の姿勢を伝える重要要素として活用できます。それぞれのメディアを使用するターゲット層を想定し、それらの人々に届きやすい形に整えるようにしましょう。
最も重要なのは媒体による表現調整を行っても「一貫性」を保つことです。トーンや文脈は調整しつつ、メッセージの本質的意味を変えない注意深い管理により、ステークホルダーへの信頼性と認知度向上を実現できます。
ブランドガイドラインにも企業メッセージを組み込む
全社でブレのない活用のため「ブランドガイドライン(CIマニュアル)」への明記が効果的です。メッセージの使用ルールや表現方法を明記することで、担当者変更時も一貫した活用が可能になり、長期的なブランド価値向上につながります。
ガイドラインには企業メッセージをコンセプトページで理念と併記し、ロゴ使用ルール同様に正しい表記方法や使用場面を明記します。トーン&マナーセクションでの文体・表現指針も重要です。
「メッセージの部分的切り取り使用禁止」「競合比較文脈での使用禁止」などのNG例・注意点も含めることで誤用を防げます。このガイドライン整備により、人事異動や広報担当者の変更、外部パートナーとの協働時にも統一基準でのコミュニケーションが可能になり、ブランド価値の維持・向上に大きく貢献します。
企業メッセージの策定や浸透のための社内イベントならCultiveへ
企業メッセージは、単なる宣伝文句ではなく、企業の理念や価値観を表現した重要なコミュニケーションツールです。
社内外のステークホルダーとの信頼関係を築き、エンゲージメントを高め、企業成長を後押しするための大事な要素となります。
この記事でご紹介した作成手順や浸透方法を参考に、会社の想いと魅力を表した素敵なメッセージづくりに挑戦してみてください!
なお、Cultive(カルティブ)では企業の想いを込めた理念策定と、その後の文化浸透施策を幅広くサポートしています。
目には見えづらい企業の“らしさ”を抽出し、メンバーと分かち合えるようなストーリーに変えてご提案します。
企業の“らしさ”がメンバーの心に宿り、行動に現れて、会社の成長につながるまでー。
Cultiveは伴走パートナーとしてお手伝いいたします。
理念づくりや文化醸成に課題をお持ちの方はぜひお気軽にご相談ください。