永年勤続表彰とは?背景や制度について
永年勤続表彰とは、長期間にわたり企業に勤務した従業員に対して、その貢献への感謝と労いを形にする福利厚生制度です。
終身雇用が一般的であった高度経済成長期などに定着した制度で、現在の実施率については、厚生労働省の2020年データでは49.5%、産労総合研究所の2006年調査では79.2%と、やや減少傾向にあります。しかし、長年会社を支えてきたメンバーを称えるものとして今でも多くの企業に導入されています。
このセクションでは、以下の内容について解説します。
- 永年勤続表彰が注目されている背景
- 一般的な表彰年数は10年・20年・30年刻み
- 定年延長による表彰年数の見直しが進んでいる
出典:労働政策研究・研修機構「企業における福利厚生施策の実態に関する調査(2020年)
出典:産労総合研究所「永年勤続表彰制度に関する調査」(2006年)
永年勤続表彰が注目されている背景
近年、転職が一般化し、人材の流動化が進んでいる状況において、永年勤続表彰があらためて注目されています。
若手社員の早期離職や中途採用の増加により、長期間にわたり企業に貢献してくれる従業員の価値が再認識されるようになりました。優秀な人材の定着や企業への帰属意識の向上は、多くの企業にとって重要な経営課題と言えるでしょう。
そうした中で、従業員の「この会社で長く働きたい」というエンゲージメントにも寄与する永年勤続表彰は、他社との差別化を促進する上でも大切な制度となります。
また、人的資本経営の観点からも、長期勤続者が持つ知見や経験は企業の無形資産として重要視されています。
長期勤続者は企業の文化や価値観を深く理解しており、新入社員の教育やチームの核となる存在です。このような人材を失うことは、単なる人員の減少ではなく、組織の知的資本の損失を意味します。
こうした背景から、永年勤続表彰制度の導入や見直しを検討する企業が増えているのです。
一般的な表彰年数は10年・20年・30年刻み
永年勤続表彰で最も一般的な表彰年数は、10年・20年・30年という10年刻みの設定です。
この間隔は、従業員にとっても企業にとっても節目として認識しやすく、運用しやすいというメリットがあります。
一方で、5年刻みで表彰をおこなう企業も存在しますが、コストや管理負担が大きくなる傾向があります。
また、初回のみ5年で表彰し、そのあとは10年刻みとするパターンを採用している企業もあります。これは、入社後5年という早い段階で従業員のモチベーションを高め、定着を促す狙いがあるためです。
最大の表彰年数については、30年または40年まで設定する企業が多く見られます。
企業の規模や業種、従業員数によって最適な年数設定は異なるため、自社の実情に合わせた制度設計が大切です。
定年延長による表彰年数の見直しが進んでいる
高年齢者雇用安定法により、定年が60歳から65歳に延長されている現状があります。さらに、70歳までの就業機会確保が努力義務化されたことで、従業員が働く期間は以前よりも長くなっています。
従来は勤続40年に到達することが困難でしたが、現在では勤続40年や45年の表彰も現実的に検討される状況となりました。
こうした定年延長に伴い、永年勤続表彰制度の見直しや新たな年数設定をおこなう企業が増えています。
勤続40年や45年といった長期勤続が現実的になったことで、表彰制度そのものの意義も変化しています。従来は「長年お疲れ様でした」という労いの意味が強かったのに対し、現在は「これからも活躍してください」という激励の意味合いが強まっているのです。
長く働ける環境が整う中で、永年勤続表彰は従業員の長期的なキャリア形成を支える重要な制度として、その役割を進化させているのです。
永年勤続表彰を導入するメリット
永年勤続表彰制度を導入することで、企業はさまざまな効果を得ることができます。単なる慣習として続けるのではなく、戦略的な人材施策として機能させることが重要です。
ここでは、永年勤続表彰がもたらす具体的なメリットについて解説します。
- 従業員のモチベーション向上と離職防止につながる
- 雇用形態や部署に関係なく公平に評価できる
- 企業文化の醸成と一体感の強化につながる
- 従業員の家族からの企業イメージが向上する
ひとつずつ順番に見ていきましょう。
従業員のモチベーション向上と離職防止につながる
長年の貢献を企業が正式に認めることで、従業員の自己効力感が高まります。
表彰されることで「会社に貢献しよう」という意識が向上し、仕事へのやりがいや誇りを実感できるようになり、結果的に従業員のパフォーマンス向上にもつながることが期待できます。
若手従業員にとっても、永年勤続表彰は「長く働くメリット」を可視化する機会となり、早期離職の抑制に効果があります。
表彰された従業員の姿を見ることで、他の従業員にとっても刺激やロールモデルとなるでしょう。これは、他者からの期待や注目により行動が変容するホーソン効果とも関連します。
また、離職率の低下は、採用コストや育成コストの削減にもつながります。優秀な人材が長く定着することで、企業の競争力強化にも貢献するのです。
雇用形態や部署に関係なく公平に評価できる
営業やマーケティングなど成果が数値化しやすい部署と、人事や総務など数値化が難しい部署では、評価に不公平感が生じやすいという課題があります。
永年勤続表彰は「勤続年数」という客観的な基準で評価するため、公平性が高いことが大きな特徴です。
すべての従業員が平等に表彰される可能性があり、不公平感が生じにくい制度設計となっています。評価されていないと感じることは離職の主要因のひとつです。
特に、間接部門やバックオフィス業務に従事する従業員にとって、永年勤続表彰は自分の貢献が認められる貴重な機会となります。営業成績のような数値では表れない日々の努力が、勤続年数という形で評価されることに大きな意義があるのです。
永年勤続表彰は、公平な評価制度を求める企業にとっても有効な福利厚生制度といえるでしょう。
企業文化の醸成と一体感の強化につながる
永年勤続表彰を通じて、企業の価値観やビジョンを共有する機会が生まれます。
表彰式では、受賞者のこれまでの功績や印象的なエピソードを紹介することで、他の従業員にとっても学びや気づきの機会となります。先輩社員の働きぶりを知ることで、自身のキャリアパスを描くきっかけにもなるでしょう。
表彰式の様子を社内報で紹介することにより、全社的に長期勤続者を祝福する文化が醸成され、長期に渡り従業員との関係を築いてきた会社の姿勢も示しやすくなります。何よりも、功労者に対して会社から感謝を伝えるという機会は理念や文化を訴求する上でも貴重なものとなります。
「この会社の一員である」「この会社と仲間のためになりたい」と思えるような機会があることは、組織の活性化や一体感にもつながります。
こうした企業文化は社会的信頼の向上や採用活動での優位性にもつながり、企業ブランドの強化にも貢献します。
従業員の家族からの企業イメージが向上する
企業の中には、受賞者の家族を表彰式に招待するところもあります。家族が直接企業の雰囲気や社員の様子を見ることで、より深い理解と信頼が生まれるだけでなく、自分の晴れ姿を見届けてもらえる従業員の喜びも大きくなります。
自身の仕事内容や努力を家族に知ってもらうことで、仕事へのモチベーションがさらに向上するという好循環も生まれやすくなります。
こうした、家族も含めたステークホルダーからの企業イメージ向上は、長期的な企業価値の向上にもつながります。家族の支えがあることで、従業員がより安心して長期的なキャリアを築ける環境が整います。
永年勤続表彰は、従業員満足度と家族満足度の両面から企業価値を高める効果があるといえるでしょう。
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永年勤続表彰の記念品の種類と相場
永年勤続表彰で贈られる記念品は、大きく分けて金一封、現物の記念品、休暇、ポイント制度などがあります。勤続年数が長くなるほど金額や内容が充実するのが一般的です。
このセクションでは、以下の内容について解説します。
- 金一封(賞与・特別ボーナス)
- 記念品(トロフィー・表彰楯・カタログギフト・商品券)
- リフレッシュ休暇などの特別休暇
- ポイント制度やデジタルギフト

金一封(賞与・特別ボーナス)
金一封は、最もシンプルで直接的な感謝の表現です。使い道が自由であるため、従業員の満足度が高い記念品といえます。
産労総合研究所の調査によると、勤続10年で約3.6万円、20年で約7.5万円、30年で約13.2万円が相場となっています。
| 勤続年数 | 賞品価格 |
|---|---|
| 5年 | 約16,000円 |
| 10年 | 約36,000円 |
| 15年 | 約37,000円 |
| 20年 | 約75,000円 |
| 25年 | 約71,000円 |
| 30年 | 約132,000円 |
出典:産労総合研究所「永年勤続表彰制度に関する調査」(2006年)より
ただし、この相場はあくまで参考であり、企業の規模や業種、予算によって適切な金額は異なります。
従業員の期待値や業界水準なども参考にしながら、自社のキャパシティに合わせた無理のない予算設定を行い、長期的に継続できる仕組みを整えることが重要となります。
また、記念品と組み合わせて贈呈する企業も多く見られます。たとえば、表彰状とトロフィーに加えて金一封を渡すことで、形として残るものと実用的なものの両方を提供できるのです。
最近では、カフェテリアプランや社内ポイントを付与する企業も増えており、従業員が自由に選択できる仕組みが人気を集めています。
記念品(トロフィー・表彰楯・カタログギフト・商品券)
トロフィーや表彰楯は形として残り、デスクや自宅に飾れるため記念になります。長年の功績を可視化できる点で価値があるといえるでしょう。
かつては社名入りの置き時計や金杯・銀杯が一般的でしたが、社名入り記念品は、自宅に飾りにくい、処分しづらいといった理由から敬遠されるようになり、現在は減少傾向にあるようです。
現在では、個人のライフスタイルや好みに合わせて選択しやすいカタログギフトや商品券などが増えているようです。
社員の好みを把握し、喜んでもらいやすいものを選ぶようにしましょう。
リフレッシュ休暇などの特別休暇
リフレッシュ休暇は、記念品や金一封と組み合わせて付与されることが多い特典です。
勤続10年で5日間、20年で6日間、30年で7日間程度が一般的な設定となっています。長期休暇を取得することで心身のリフレッシュができ、仕事へのモチベーション維持にもつながります。
また、家族との時間を大切にできるため、ワークライフバランスの実現に寄与する効果もあります。記念品としての価値だけでなく、体験や思い出として記憶に残りやすいメリットがある贈り物と言えるでしょう。
ポイント制度やデジタルギフト
福利厚生代行サービスのポイント制度やデジタルギフトを導入する企業が増えています。
受け取った従業員がポイント内で自由に商品やサービスと交換できる仕組みであり、柔軟性が高いことが特徴です。
商品券と異なり、利用履歴の管理がしやすく、企業側の事務負担が軽減されるメリットもあります。
デジタルギフトは配送の手間がなく、リモートワークの従業員にも贈りやすい点が魅力です。メールやアプリを通じて即座に受け取れるため、スピーディな対応が可能となります。
選択肢が豊富で個々のニーズに対応しやすいため、従業員満足度が高い傾向があります。時代に合った記念品として、今後さらに普及していくでしょう。
永年勤続表彰に関するよくある質問
永年勤続表彰制度に関して、企業の人事・総務担当者からよく寄せられる質問をまとめました。
このセクションでは、以下の内容について解説します。
- 永年勤続表彰は法律で義務付けられていますか?
- パート・アルバイトも表彰対象にすべきですか?
- 記念品に課税されることはありますか?
制度導入や運用の際に参考にしていただければ幸いです。
永年勤続表彰は法律で義務付けられていますか?
永年勤続表彰は法律で義務付けられた制度ではなく、企業が任意で導入する福利厚生制度です。労働基準法などで定められた法定福利厚生ではなく、法定外福利厚生に該当します。
企業の判断で自由に導入・運用できる制度であり、導入するかどうか、どのような内容にするかは企業の裁量に委ねられています。
ただし、一度導入した場合は就業規則や社内規程に記載し、継続的に運用する責任が生じるので注意が必要です。
従業員に約束した制度を一方的に廃止することは、信頼関係を損なう可能性があります。導入前に十分な検討を行い、持続可能な制度設計を心がけることが大切です。
パート・アルバイトも表彰対象にすべきですか?
パート・アルバイトを表彰対象に含めるかどうかは、企業の方針や制度の目的によって異なります。
雇用形態に関係なく全従業員を対象にすることで、公平性が高まり、組織全体の一体感が醸成される効果があります。
永年勤続表彰は勤続年数のみを基準とするため、雇用形態による区別がしにくいメリットもあるのです。
パート・アルバイトも長期間勤務している場合は貴重な戦力であり、表彰することでモチベーション向上や定着率向上につながります。
重要なのは、基準を明確にし、従業員に周知することです。どの雇用形態が対象となるのか、勤務時間や勤務日数に条件があるのかなど、透明性のある制度設計を行いましょう。
記念品に課税されることはありますか?
永年勤続表彰の記念品は、一定の条件を満たせば非課税となりますが、条件を満たさない場合は給与所得として課税対象となります。
非課税となるには、所得税法基本通達36-21に基づき、勤続年数や地位に照らして社会通念上相当な金額であること、現金や商品券ではない記念品等であること、などの要件を満たす必要があります。
出典:所得税基本通達36-21 課税しない経済的利益……永年勤続者の記念品等
実務上は目安として「勤続年数がおおむね10年以上」「記念品の価格を勤続年数×5,000円以内に抑える」といった社内基準を設けて運用するケースもあります。
一方、勤続年数が10年未満の表彰や、価格が基準を超える場合、現金や商品券を支給した場合などは課税対象となり、源泉徴収の対象となります。
出典:No.2591 創業記念品や永年勤続表彰記念品の支給をしたとき(源泉所得税)
企業は税務調査に備えて表彰者リストや記念品の内容・価格、表彰規程などの記録を保管しておくことが重要です。判断に迷う場合は、事前に税理士や所轄税務署に確認することを推奨します。
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永年勤続表彰制度で社員に感謝を伝えよう
永年勤続表彰は、長年にわたり企業を支えてきた従業員への感謝を形にする重要な福利厚生制度です。
従業員のモチベーション向上や離職防止、企業文化の醸成など、さまざまなメリットがあります。
記念品の種類や相場、表彰年数の設定など、自社の実情に合わせた制度設計を行うことで、より効果的な運用が可能となるでしょう。
Cultiveでは、社内イベントや表彰制度の企画から運用までサポートしています。制度づくりにお悩みの方は、ぜひお気軽にご相談ください。





































